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| 2002年3月24日 Sun | その１(４月５日記す） |
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朝。父を呼ぶ母の声で目がさめる。 昨晩(23日)の日記のとおり、深夜まで映画を見たことを記していた頃、父が起きてきてトイレに入ったのは気付いていた。 そのうちいびきが聞こえてきたので、いつものとおり泥酔して寝てしまったのだろうと思っていたので、私はそのまま床についたのだった。 母の声でトイレに行ってみると、父が床にくず折れて、いびきをかいていた。いくら声をかけても反応がない。救急車だ、と母が言ったので、私もそう思い、電話を取り上げた。 １１９番をまわすとまず「火事ですか、救急ですか」と聞かれた。自分でも驚くくらい、ゆっくりと住所と名前、状況を伝えた。 「呼吸をしていますか」と聞かれた。「いびきをかいている」とこたえた。「いま救急車を出しましたから、横に寝かせて、呼吸を確認してください。」と 言われた。「息をしていないようなら、またかけてください」とも言われた。 ほどなくして、サイレンの音が聞こえる。出かける予定でおきてきた母は、すでに着替えていた。寝巻きのままの私といっしょに、父の体をかかえて、廊下に寝かせた。体のなんと重たいことか。 ドアを開けて、開け放しておく支えを探すがみつからない。そのまま玄関でドアを抑えていると、担架をころがして救急隊員が３人来た。 救急隊員は、靴を脱がずに家の中に入ろうとし、ポケットから靴のカバーを出してつけた。その動作があまりにも緩慢に思えた。 母だけを救急車に同乗させることにして、「病院ついたら電話して」と言った。サイレンの音がまだ聞こえないので、寝巻のまま外にでると、救急車はまだ家の前にいた。 なにをすべきか分からないまま、家の中に入ると、ほどなくしてサイレンの音がしたが、すぐに消えたような気がした。なんとなく家の近所の病院に運ばれたと感じた。 父は今朝仕事だったはずで、７時に出る予定だったと母が言っていた。父の仕事先に行けない旨だけを伝えた。７時４５分だった。 服を着替えて、妹に電話したと思う。それから、１巻全部を出されていたロールを片付けた。トイレは全く汚れていなかった。どうやら鼻をかむ行為をしていたらしい。 ８時近くになって、母から電話があった。予想どおり近所の病院だった。医師の説明があるから一緒に聞こうというので、カギを閉めて家を出た。桜の花が満開であった。 人気の無い、病院のロビーで母と座る。あれは脳出血だと話した。20年前に死んだ母方の祖父のことを聞いた。 このときには、もう、自己責任という言葉がアタマの中にあった。数年前に退職して以来、定職にはつけず、すでに老後とも言える生活を送ってきた父を見ていたから、すでに生きるということを放棄したような生活であったから、父が倒れたのは、あくまでも父の責任だと考えていた。そして、このまま死んでしまっても、それもまた父自身の人生だと思っていた。黒いネクタイをした男性２人が、ロビーの前をすぎる。病院なんてほとんど入ったことがない私たちだった。 |
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| 2002年3月24日 Sun | その２（４月５日記す） |
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なにも食べていないので、このままではアタマがまわらないと思い、なにか飲むものでもと探しているうちに、医者から呼ばれた。 救急治療室に入ると、これから主治医となる医師がいた。カーテンの裏から、父のいびきだけが聞こえてきた。 16断面だか20断面だかのＣＴスキャンのフィルムを見せられる。右視床脳出血と告げられる。脳の一部が数枚に渡って白く移っているのが見える。たしかこのとき、左半身は麻痺で中風状態になるだろうと言うことと、意識が戻るかどうかということをいわれたと思う。 また、脳内の奥なので手術はしない部位であること、血圧が200近く危険な状態であること、数時間後にまたCTスキャンをして様子を見るとのこと。医師の説明を受けている間、立っているのが辛くなり、母に椅子を与える。 いちど治療室を出て待つように言われ、しばらくまつ。このときに何を話したかは覚えていない。 呼ばれて、寝台に寝かされた父が出てくる。看護婦と一緒にエレベーターで４階へあがる。この病院はＡＢＣの３棟あり、ここがＡ棟であることを教えられる。看護婦が声をかけ他の看護婦を呼び、ストレッチャーから寝台へ移す。下着姿のままで寝かされてしまったと思う。 寝台へ移すのもただ見ているだけだった。ＩＣＵと書かれた戸の向こうへ入っていったので、そこでまた待つように言われる。 入院案内の紙を渡され、入院に際しての紙を書かされる。緊急連絡先とか、既往症とか。 ４階からは、見慣れた街の風景が見える。 数十分ぐらいして、ＩＣＵの中に入れられる。規則として、マスクと割烹着のような服を着るように言われる。父は相変わらずいびきをかいている。声をかけることもできず、母と二人、ただ見ているだけ。つけられた血圧計は180前後だったと思う。 ２度目のＣＴをとり戻るのが12時ごろといわれる。主治医はそのときにまた話をしますと言った。ひとまず帰ることにした。 |
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| 2002年3月24日 Sun | その３（４月５日記す） |
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帰りすがら、妹にふたたび電話をかけて、来るように伝える。 家に入ってから、とりあえず、飯を食う。「血圧が高かったですか」といわれたことを思い出し、父の健康診断の結果を探す。 平成１２年２月に、今の仕事先で受けた診断書が見つかる。それまでは、年に１度は保健所の診断に通っていたのだが、それ以降は、受ける気もなかったようだ。見てみると、血圧の欄に要注意の印がついている。その診断は二次検査を受けるように書かれていたが、それには行かなかったことを思い出す。 なんだ、そうだったのか、という思いになる。ますます「自己責任」という言葉がアタマをよぎる。 12時を過ぎたので、家を出る。さきほど渡された持ち物リストの中に、浴衣３枚とかタオル数枚とかがあったので、それをもって出る。ただし、さすがに紙オムツまでは家にはない。 ４階の椅子で待つ。13時になったら主治医が来るという。やってきて、室内に入る。 先ほどと同じＣＴを、直後の分と10時の分２枚見せられる。比較のため他の患者のも見せられるが、アタマの向きが違うのに気付く。 横向きのママだということに気付く。 状況に変化なし。右視床に２×３×２cmの出血。２〜３日は水のたまる水頭症という危険な状態。急性の場合は切開してチューブを入れる手術をする必要があること、全身合併症を併発した場合は気管切開して人工呼吸する可能性があることを告げられる。 このときは、意識が戻らずに生き長らえるよりかは、安らかに死んだほうがよいと思っていたので、そうした大きな措置はしないように告げようと思ったが、妹が来てから決断しようと思い、そろそろ来るはずの妹を探した。ちょうどその頃に、妹が来たので、あわせて再度説明を受ける。 その他、回復しても、左半身麻痺は免れないこと、意識は戻っても家族を認識できるかどうか分からないこと、寝たきりの生活を余儀なくされること、よくて車椅子生活ということを聞く。 それから、この病院は救急病院なので、長くとも４週間程度しか入院できないことを、再度告げられる。 ケースワーカーに連絡するから、次の病院を相談するように言われる。 部屋を出て、もう一度面会を望む。その間に母が病院内の売店でオムツを買いに行く。あわせて5000円もしたと驚く。 妹と母だけが面会し、そして家に帰る。 私が父の実家に、母が母の実家に連絡をする。それから、父の身の回りの物を探す。預金通帳とか仕事先の書類とか。 先日の墓参りが最後になったと話す。本当に。 その間に、友人らから誘いの電話がかかる。仕方なく事態を伝えることになる。 それでも世の中は動いている。普通の日常が流れている。 一人風呂に入ってから、酒でも飲まないと眠れそうにないなと思い、父の飲んでいた酒が残っていることに気付く。 安酒ばかり飲んでいたので、一度も高い酒を飲ませることが叶わなかったと思い、ここではじめて泣く。 明日は月曜なので、妹は帰る。水曜日には３人とも休みを取ることを決める。 最後の思い出となった、春分の日の墓参りだけは、日記に書いておこうと思い、書き始める。 父の実家の前でとった何気ない写真が、最後の写真となったことに気付く。父の顔は近年になくよい顔をしていることに、また涙する。 |
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| 2002年3月25日 Mon | （４月５日記す） |
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会社に行き、直属の上司とチーフだけに事態を伝える。 何も手につかない状態だが、作業はできる。ただしアタマを使って考えることは難しい。 今日が給料日ということに気づく。簡単に会社を辞められないと思う。 父の借りていた本をまとめる。早晩図書館へ返しに行かねば。思いついて、本を並べて写真に撮っておく。 連絡していない友人から、お見舞いの電話が来る。なぜだかその電話に腹が立つ。 あとから思えば八つ当たりなのだが、自分の精神状態が不安定になっていることを思い知らされる。 |
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| 2002年3月26日 Tue | （４月５日記す） |
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知り合いには医者などいないと思っていたが、前夜思い出して、旧い先輩に電話してみる。 入院した病院は、周辺で大きい病院であること。視床という部位から、診断や措置、そして予後についても妥当だと知る。 依然として、気を振るっていないと、仕事にならない。 それから、何気ない言葉に、口が悪くなっていることに気付く。 |
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| 2002年3月27日 Wed | （４月５日記す） |
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午後２時に主治医と面談の予定。それまでにと、３人で動き回る。 11時。副業でお世話になっているＨさん宅。現在ご家族を介護しておられ、その話を聞いていたので、介護に関わる話を聞く。 その後、区役所。健康保健・介護保健・障害者制度・年金制度などを聞いて回る。 今日現在父は59歳と10ヶ月。60歳の直前という、これまた間の悪いことだと思う。 ２時に病院。再度話しを聞く。急性期は脱したとのこと。 生き長らえる。寝たきりで、なにも分からなくとも。 その後、図書館へ行き、父の本を返す。自分の本が３冊も来ている。新刊ばかり。 とても読める気分ではないのに…。 心配してくれている友人らに向ける思いで、ＢＢＳにだけ書き込みをする。 |
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| 2002年3月28日 Thu | （４月５日記す） |
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いつもの場所で、友人らが飲んでいると聞いたので、顔を見たくなりよってしまう。 会計事務所に勤めるＨ氏から、所得税とか医療費控除とか扶養家族とかの仕組みを聞く。 持つべきものは友達と改めて思い知らされる。 ビール１杯だけ飲んだが、それ以上は飲んではいけない気がした。 多分、飲み始めたらトコトンまで飲んでしまいそうで、そら恐ろしかった。 |
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| 2002年3月30日 Sat | （４月５日記す） |
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３人で会える時間を希望し、この日の午前中にケースワーカーとの面談をする。 普通の病院、特に老人病院には、脳疾患専門のリハビリをすることはなく、１日に数時間程度、内科のリハビリをするということを聞く。 そこで、脳疾患専門のリハビリをするところはないのかと聞くと、それをお望みなのかと問われる。 どうやら、救命の治療を断ったことで、家族にその意思がないととられたらしい。 医師とケースワーカーと家族との間で、伝達に齟齬が生じているらしい。 再度面談することにして、とりあえず、いくつかの病院を紹介される。 |
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